お母さんが死ぬまで、そのやり取りは続いたと仲井さん。
絵を描くことが大好きになった理由は、お母さんの言葉から。
イラストレーターを夢見るようになったのは、お母さんのあの時の笑顔が忘れられないから。
お母さんが言ってくれた言葉を、あの笑みを、大好きな絵に活かしたい。
自分のイラストが綴られる言葉の色になるなら、喜んで色を塗りたい。
それが夢の根底にあるのだと仲井さんは、ぼくを見上げて頬を上気させた。
「だから、がんばるね。中井くん」
つられて頬を崩し、ぼくは聞く。
どうして、ぼくに宣言するのか、と。
「中井くんなら親身に聞いてくれると知っているからだよ。きっと、わたしの気持ちを持っていなくても、笑わずに夢を聞いてくれるんだろうね」
「どうかな。ぼくは面倒くさがりだから。適当に聞き流すかもよ」
「ううん。中井くんは優しいから、そんな態度は取らないよ。いつか、お父さんにもこの話ができたらいいんだけどね。話す前から“人生は甘くない”って突っぱねられちゃうから」
「オトナって、すぐ人生を出すよな。ぼくには、まだ甘さも辛さも分からないんだけど?」
好き勝手に人生の味を言い聞かされても困る。
ぼく達はまだ高校生になって一年目なんだ。人生がどんな味なのかくらい、想像させてくれても良いと思う。
「激甘かもしれないのにな?」
同意を求めると、「そうだね」と、仲井さんがくすりと笑った。
「久しぶりに、ちゃんと植物を描こうかな。お母さんの話をしたら描きたくなっちゃった。ヒヤシンスは描けないけど、他の花なら描けるかも。中井くん、リクエストないかな? できたら描きやすそうな花がいいな」
「……仲井さん、ぼくが花に詳しい男に見える?」
「うん、すごく見える。詳しそう」