ふたりの間に沈黙が流れる。
ちょっとだけ視線を落とすと、机の上に二冊の本が置いてあった。
一冊は貫禄のある分厚い本。
ぼくの親指の幅ほどページ数がある。
表紙には『初心者向けのイラスト講座』と題名が記され、鉛筆描きされている人間が笑顔を作っている。
もう一冊は雑誌。
それは映画専門の雑誌で、表紙一面におぞましい仮面をかぶった人間がチェーンソーを振りかざしていた。
いかにもホラー映画の登場人物だと分かる。
これはぼくと彼女の私物だ。
どっちがどっちの私物なのかは、お互いの見た目で分かると思う。
それが理由に挙げられなくとも、ぼくは美術がとても苦手だ。
有名絵画を見たところで感動よりあくびが出る。
絵を描こうとしたってペンを握ったら、真っ白な紙に棒人間を並べるだけ。芸術とは全然縁がない。
なのに、ぼくはこれっぽちも興味のないイラスト講座の本を手に取り、彼女は映画専門雑誌を手に取った。
「もう一度確認するね。お付き合いの期限はわたしときみが元通りになるまで」
「ああ、分かっているよ。今持っている本が、持ち主の下に戻るその時まで、だろう? ちゃんと理解しているから」
「それまで、大切にしてね。わたしの気持ち。中井くん、変なことしないでよ?」
「いやいや人聞きが悪いからね。ぼくの気持ちだって仲井さんの中にあるんだから、そっくりそのまま返すよ」
まず変なことってなに? なにをするんだよ。