「仲井さんが絵を描いているのは、お遊びからなの?」

「ちがうよ、わたしは」

彼女が焦ったように否定する。良かった、それなら安心だ。


「世の中には、仲井さんのようにイラストレーターを目指す人がたくさんいるんだろう? なら目指せばいいじゃん。遊びじゃない、本気なんだって自分に言い聞かせてさ。自分にしか描けない絵を描くことが目標なんだろう?」


だったら、それを目指してがんばれば良いと思う。

ありきたりな応援しかできないけどさ、仲井さんがそれを目指したいなら、そうするのが一番なんじゃないかな。

彼女の家庭事情とか、そういうのはぼくにはよく分からないけど。


「仲井さんのイラストに対する気持ちが本気なのは、誰でもないぼくが分かっているよ。なにせ、ぼくがきみの気持ちを持っているんだから」


ニッと歯茎を見せて笑うと、それまで硬い表情を作っていた仲井さんが柔らかく綻んだ。

それに伴って胸の痛みがスーッと消える。

「ふふ、そうだった。中井くんにはばれるんだったね。わたしの気持ち」

「そうだよ。仲井さんのおかげで、ぼくの小遣いはイラスト関連の雑誌に消えていくんだぜ? きみがどれだけイラストに情熱的なのかは分かっているつもり」

「お金を使う点に関してはわたしの気持ちのせいじゃないでしょ」

いつもの調子で会話を交わした後、仲井さんは安心したように止めていた鉛筆をまた走らせ始める。

視線はスケッチブックに落としたまま、ぼくに向かってこんなことを言う。


「中井くんは笑わないんだね、わたしの夢を聞いて。てっきり、ギャンブルじゃん、とか言うと思ったんだけど」


ぼくの性格上、確かに言いそうだ。

もっと現実を見た方が良い、とか小生意気なことを言いそう。


だけど、ぼくは――。



「嫌いなんだ。そういう話に茶々を入れるの」