仲井さんに気付かれないよう、シャツの上から軽く胸をさする。

突き刺さる痛みを感じた。

刃物で貫かれたような痛みは吐き気すら覚えるほど。


目を白黒させていると、またズキリと胸に痛みが走る。


ぼくの様子に気付かない仲井さんはたっぷり間を置いて、美術科にある高校に行きたかった旨を教えてくれる。

やはり彼女の目指すものは、普通科ではなく美術科にあったそうだ。それは本人も分かっていた。


けれど、父親の許可が下りなかったのだと仲井さんは目を伏せる。

美術科に掛かる費用はもちろん、父親の理解が得られなかったとのこと。

高校選びですら反対されるのだから、イラストレーターなんて言語道断。話したところで相手にすらしてもらえないと彼女は苦笑いを零した。


「イラストレーターは安定した職業じゃないからね。反対する気持ちも分かるけど」



それでも諦めきれないから、一度社会人になってからイラストレーターになるための学費を稼ぐことも視野に入れているらしい。

もしくはバイトをしながら、奨学金を借りながら、と様々な視点から進路を考えているとか。


それはそれで立派なことだと思う。


どこの家庭にもお金その他諸々の事情はあるだろうから。

仲井さんとしては、早くからイラストの勉強をしたいんだろうけどさ。


まだ浮かない顔を作る仲井さんは、スケッチブック上に走らせていた鉛筆を止めて、そっと吐息をつく。


「絵を描くってお遊びなのかな?」


言っている意味が分からない。なんで、お遊び?


「お父さんが言っていたの。お前が考えているほど人生は甘くない。遊びでお金は稼げないって。絵を描かない人から見れば、イラストレーターなんて夢は賭け事にしか見えないんだろうけど」


ぼくはジッと仲井さんのスケッチブックを見つめる。


描きかけの教室の風景と、動きが止まった鉛筆。

それから吐き気がするほどの胸の痛み。


仲井さんのイラストに対する、別の一面。


気の利いた言葉は言えないけど、これだけは聞きたい。