「大げさだよ。絵を描くことは魔法でもなんでもない。中井くんも描き続ければ、わたしにすぐ追いつくから」

「冗談だろ? ぼくが仲井さんのようになれるわけないじゃん」

だったら、ぼくの美術の成績は常に『5』だろう。断言できる。

「本当だよ。だから、わたしはもっと上達したいと思ったの。もっと上手になって、わたしだけしか描けない絵を描く。それがわたしの目標なの」

強い意思を込める仲井さんの横顔を見つめる。

妙に心の奥が疼いたのは、ぼくの中の彼女の気持ちのせいだろう。


想いが強いから疼いたのか、それとも別の感情が宿っているのか、それは分からない。

分かるのは仲井さんの本気くらい、かな。


「仲井さんは絵を描く仕事をしたいの?」


「え?」一変して戸惑いの表情を見せる彼女に肩を竦める。


「なんとなくそう思ったんだ。すごく熱心だし」


そこまで絵が好きなら、どうして美術科のある高校を選ばなかったんだろう。

探せば一つくらいは、美術科がありそうだけど。


ぼく達がいる普通科よりも多く、美術の授業もあるだろうし、意識の高い生徒も集まって刺激になりそうじゃん。

仲井さんの熱意を知っているからこそ、こみ上げる疑問だ。お金の問題かな。美術科は高いって聞くから。


「隠しても、わたしの気持ちを持つ中井くんにはばれるから言うけど、わたし……絵を描く仕事をしたいの。イラストレーターになるのが夢なんだ」


「イラストレーター? 漫画家とは違うの?」


「漫画は物語を絵で表現する人。イラストレーターは本の表紙や挿絵を描く人。広告のイラストも描いたりするんだけど、わたし、それになりたくて」


だったら、なおさら美術科のある高校を選ぶべきだったんじゃないかな。

ぼくの疑問は強い胸の痛みによって消えてしまう。


なんだ、今の。