「中井くん。お付き合いの期限は戻るまで、だからね」


今から彼女になる、その子にきっぱりと期限を突き出された。

喜んでその期限を呑むぼくは、確認する意味も込めて彼女に聞き返す。


「期限付きのお付き合いだね? 分かった、ちゃんと覚えておくよ仲井さん。その方がお互いのためだろうしさ」


ぼくも彼女もナカイ。同じ苗字の音だけど、漢字が一文字違う。

にんべんが付いている方が仲井さんで、付いていない方がぼく。

とてもややこしい。


クラスメイトから『ナカイ』と呼ばれる度に、ぼくと彼女が反応して振り向いてしまうのだから。

そう思うと、日本で数の多い苗字『佐藤さん』や『田中さん』、『鈴木さん』辺りはいつも苦労しているんだと思う。

同じ苗字の音を持つぼく達だって苦労することがあるのだから。


ちなみに彼女の下の名前は知らない。

だって、仲井さんとは仲良くもなければ親しくもない、ただの同級生だ。会話こそしたことはあるけど、それだけ。

はっきり言えば性格が合わないと思う。

ほら、よくあるだろう?

そいつとしゃべった瞬間、『あ、この人とはお友達になれそうにない』っていうあれ。

悪い印象を持たれたくないから愛想は振る舞うけど、何を話しても会話が弾まない。まさに仲井さんはそれだ。

きっと彼女も、ぼくの下の名前を知らないと思う。

仲が良ければ『ナカイ』と、よそよそしく呼び合わずにいられるんだけど……よりにもよって、しゃべるだけでも壁を感じる仲井さんがぼくの彼女か。

上手くやっていけるかな。先行き不安だ。


「なんで、こんなことになっちまったんだろうな?」


お付き合いの原因となった話題を仲井さんに振る。

すると彼女は唇をヒヨコのようにとがらせ、むすっと頬を脹らませると、「中井くんのせいだよ」と、すべての責任をぼくに押し付けてきた。

それには異議申し立てをしたいところだ。

確かに原因を作ったのはぼくのせいかもしれないけど、ふたりの身に降りかかった災難はぼくのせいの一言じゃ片付けられないじゃないか。

「これ、誰かに相談したいよな。いっそ医者に相談したらいいかもしれない」

そんなことをした日には頭の心配をされるだろうけど、

「誰も信じてくれないと思うよ。わたし達だって、わけ分からないんだから。やっぱりこれは、わたし達でどうにかしないといけないと思う」


「そうだよ、な」

「……そうだよ」