「なんで仲井さんがいるんだよ」

「え、あ……中井くんがここに入るのを見て」


ぼく達のクラスから、この教室までずいぶんと距離があると思うんだけど……て、ことはなにか? つけられた? ああもう、最悪なんだけど。


「それ。捨てて良いよ。単なる落書きだから」

「捨てないよ。中井くんが一生懸命に描いていたものだよ。落書きかどうかは、絵を見ればすぐわかる。本気で描いていたんだね」

「ちょっとしたお遊びだよ。仲井さんは騙されやすいな」


「あ、このファイルにもデッサンがいっぱい。中井くん、わたしの言葉を真に受けたの? 見た目によらず、真面目さんなんだね」


もういっそ、この場からぼくを消してくれ。

消しゴムで人間を消せるなら、ぼくは今すぐ自分を消し去りたい。まじで恥ずかしい。


頭を抱えて机に伏せるぼくは、「べつに笑っていいから」と、仲井さんに訴える。

ここで下手くそだと笑ってくれたら、そうだろうそうだろうと笑い返せる。

それでもって、仲井さんの気持ちに振り回されて災難だったと文句もぶつけられる。


どうせ下手くそ野郎が描いた絵なんて、高が知れているんだ。



お願いだから笑ってくれ。



「笑わないよ。中井くんが一生懸命に描いていた絵だよ。笑うなんて失礼だよ」



そう返してくるか、返してきますか、もっと恥ずかしくなったんだけど。