デッサンに挑戦して四日目。
相変わらず下手っぴな絵を描き続けるぼくは、気分転換として描く場所を変えてみようと思い立つ。
いつも自分の部屋で描いているけど、たまには学校で描くのもいいかもしれない。
それで上手くなるとは思えないけど、要は気持ちの問題だ。
学校を終えると、ぼくは誰の目にも触れないであろう視聴覚室に入る。
鍵が壊れている後ろの扉から侵入すると、窓際の最後尾の席へ。
前の席とくっ付けて、机にファイルと雑誌を置く。
「立てかけた方が描きやすいかな?」
いつも雑誌を寝かせて描くから、今日は角度を変えてみようか。
ペンケースを使って角度を付けると、鉛筆を持ってルーズリーフに線を描く。
何事も形から入るタイプのぼくだ。
このデッサンをするために、わざわざ使わなくなった鉛筆を机の引き出しから引っ張り出したんだ。鉛筆はもう三本目だ。
そろそろ買わないとストックが切れる。
我ながらよくやると思うよ。
いっそ、美術部にでも入ってみようかな。
茹だる教室の熱気と、外から吹き抜ける風の心地よさの両方を感じながら、手と目を動かしていく。
ひたすら無心だった。
デッサンを描き上げようという思い以外、すべての感情をシャットダウンしていた。
だから気付かなかった。
仲井さんが視聴覚に入って来たことも、ぼくの隣に座って、いつまでも様子を見守ってくれたことも。
彼女の存在に気付いたのは、デッサンの線画が出来上がった頃。
これから影を付けようか、また描き直そうか、と迷っていたぼくは描きなおしを決めてそれを丸めようとした。
「も、もったいないよ」
仲井さんにルーズリーフを取り上げられ、ぼくは仲井さんの存在を知る。
丸めてはだめだと言ってくる彼女に驚いて、教室に響き渡る悲鳴を上げてしまったのはご愛嬌だろう。
いや普通に驚くって。誰もいないと思っていた教室に、あろうことか仲井さんがいるなんて。下手なホラー映画を観るよりもびびる。