「仲井さん、今すぐぼくの気持ちを返してくれ。その内、イラストを描きたいとか言い出して道具を揃え始めそう。ううん、揃え始める未来しか見えない。破産する!」


「……中井くんは形から入るタイプかな?」


「うん。自他ともに認める、とりあえず道具を揃えてから始めるタイプ。困ったことに。一応聞くけど、道具ってどれくらいするの?」

「物にもよるけど……例えば、色塗り用マーカーのコピック。あれは一本で四百円近くするよ」


気が遠のいた。


一本で四百円。

十本で四千円。


色って何種類あったっけ?

何か月分の小遣いを前借りすれば揃えられるんだ。

お年玉を崩せば揃えられるかな?


違う、そうじゃないだろ。

早いところ、気持ちを元に戻さないと、本当にぼくは破産する。


「大した絵も描けないくせに、道具を揃えたいと思うばかがここにいる。どうしよう仲井さん。ぼくはその内、隠れてバイトを始めるかもしれない」


昇降口で靴を履き替えながら、ぼくは頭上に雨雲を降らせる。新たな事実からどうしても立ち直れない。

「浪費癖に関しては何も言えないよ。がんばって中井くん」

「他人事だと思って……仲井さんはどうなの? ぼくの気持ちを持っているけど」

見る限り、ぼくのように衝動買いをすることはなさそうだけど。


けれど質問に仲井さんの表情が暗くなる。

曰く、レンタルビデオ店でDVDを借りたそうだ。

単なる映画なら心ゆくまで楽しめるのに、自分の手に持つ映画がどれも苦手とするホラー映画。

それを観ようとする自分がいると彼女は落ち込んだ。

「なんで、ホラー映画ばっかり……嫌いなのに」

「ああ。たぶん事故寸前までぼくが観たいと思っていたからじゃないかな。仲井さんに預けている雑誌の特集も、夏のホラー映画特集になっていなかった?」

「わたしは恋愛映画を観たいよ。もう、いっそ中井くんの映画好きを恋愛映画好き限定にしちゃおうかな」


「や、やめてくれよ。ぼくは唯一恋愛映画が苦手なんだから」