「なあ、にんべんのナカイさん」
「なに、にんべんのないナカイくん」
はじめて彼女と一緒に帰る約束をしたぼくは、不機嫌に隣を歩く仲井さんを横目で見る。
ぶすくれている彼女の唇は例の“ヒヨコ”になっていたけど、それを指摘すれば、もっと機嫌が悪くになるに違いない。
その代わりに出した話題がこれだった。
「ぼくの友達のせいで、色々とごめん。すごく目立っちゃったね」
「本当だよ。お付き合いするだけで、コンビ名まで付けられるとは思わなかったよ」
頬をふくらませる仲井さんはいい迷惑だと唸った。
ぼくの想像している以上に、彼女は毎日が嫌になっているようだ。
特にあだ名を付けた元凶の柳と宮本にはウンザリしているみたい。
あいつ等も悪い奴等じゃない。
ただ、すぐ調子に乗って人をからかってしまうお子様なんだ。
それを仲井さんに言ったところで、向こうの機嫌が直るわけじゃないだろう。
からかわれている本人にしてみれば良い気分じゃないだろうし。
ぼくみたいに慣れていたらいいんだけどさ。
さて、どうしたものか。
ぼくは頭の後ろで腕を組み、他に良い話題はないかと思考を巡らせる。
期限付きのお付き合いとはいえ、仲良くしたいと思い立って一緒に帰ろうと誘ってみたものの、これいってカレカノとしての話題は思い浮かばない。
これでも仲井さんはぼくにとって初カノ。
恋愛経験のないぼくは何をどうしたらいいのか、さっぱり分からない。
適当に現状を話し合ってもいいけど、それじゃ単なる事務的な会話で終わりそうだ。
もっと親しく話しても罰は当たらないと思う。
彼女と性格が合えば、ぼくも弾んだ会話ができるんだけどな。
彼女が仲井だけに、中井にとって“ナカナカ”に難しい女の子だ……く、くだらない。
これを口にしたら、また仲井さんに怒られそうだから黙っておこう。