「えーっと、こういう時はなんて言うのかな? 雄々しくぼくの彼女になれ、とか言えばいい?」
「言われなくても、彼女になるけど……その言い方はあんまり嬉しくないよ」
「まじ? 女子って、そういう言い方が好きなんじゃないの?」
「イケメンの俳優さんが言ってくれたら嬉しいよ」
「こ、心えぐることを。ごめんけど、この顔で我慢して」
生まれてはじめて、ぼくに彼女ができた。
高校に入学したその年の二学期、夏休みが明けた週の半ばのことだ。
まだまだ茹だる暑さを強く感じる放課後の教室。
その四隅の窓辺に立ち、ぼくはお付き合いを始める女の子と机を挟んで向かい合う。
その子はぼくのクラスメイトで、視線が合うと困ったように眉を下げた。
二つに結んでいる髪が、彼女自身の心情を表すように力なく垂れさがっている。
つい、ぼくも同じ顔を作ってしまう。
正直な感想、嬉しい気持ちは少ない。
どちらかといえば、戸惑いでいっぱいだ。
できることなら、今すぐにでもお断りしてしまいたい気持ちで胸を占めている。自分からお付き合いをしよう、と提案してなんだけど。
それはきっと、お付き合いを受け入れた彼女も同じ気持ちだろう。
人の顔を見る度にため息をついて、まったく気が進みません、と言った素振りをみせるのだから。
まるでハズレくじを引いたような顔だ。
仮にも彼氏になる人間の前で失礼な態度だよな。
建前でもいいから、ここは嬉しそうに微笑んでくれるとこっちとしても心が軽くなるのに。
まあ、似た態度を取るぼくも人のことは言えないけどさ。