ゆるゆると立ち上がる仲井さんが、ぼくを見つめてくる。
たっぷりと間を置いて、うんっと一つ頷いた。
決まりだ。
ぼくは仲井さんと話すために、階段を上がった。
四階に視聴覚として使用されている教室がある。
普段は無人の空き教室だし、好都合なことに後ろの扉の鍵が壊れているから、簡単に侵入ができる。
そこで話し合おう、これからのことについて。
その後のことは、仲井さんと約束した通り。
ぼく達の関係は元に戻るまでの期限付き。
身に降りかかった災難は誰にも言わない。
お互いの気持ちはできるだけ大切にする。
どちらかが変な行動を起こしたら全力でサポートする。
あとは、形だけのカレカノだから必要以上なことはしない。
これは仲井さんからぼくに対する要求だ。
一体ぼくをなんだと思っているんだろう? オオカミとでも思われているのかな。
どっちにしても手を出すわけないだろう。
好みじゃない、とか言ったら怒られるだろうけど、ぼくのタイプじゃないんだから。
まず、ぼく達は種類が違うんだよな。
仲井さんは比較的におとなしく、クラスでは目立ちたがらないタイプだ。
教室の隅っこで友達と会話したり、本を読んだり、絵を描くことが好きな子。
対照的にぼくは、とても目立つタイプで、クラスの男子とばか騒ぎしている。
昼休みにはバスケをしたり、サッカーをしたり、小学生みたいに教室で鬼ごっこすることもある。
そんなぼく達が、形だけのお付き合いなんてできるのかな。
ああ、先行きが不安だ。
できるだけ目立たないように、ぼく達のお付き合いもやんわりと空気を醸し出す程度にする予定が、一日にしてクラスに広まっているし。
「ふたりのナカイが付き合い始めた。なんか、ウケるな。コンビ名でも付けられそうじゃん」
「中井と仲井さん。略してナカナカ。お、“ナカナカコンビ”なんてどうよ。まさにコンビ名って感じがしねぇ?」
「なんだそりゃ、芸人っぽいぜそれ。まじウケるんだけど」
「はは、“ナカナカ”いいコンビ名だろ?」
「上手い。座布団一枚だな」
いつもつるんでいる友達は好き勝手に笑ってくれるわ、いつの間にかコンビ名を付けられるわ、ぼく達をネタにして遊んでくれるわ、不安は尽きない。