「わ、わわわ! 見て、中井くん!」


ぼんやりと映画雑誌を見つめていると、腕を掴まれて勢いよく揺さぶられる。

ハタッと我に返ったぼくがどうしたのか、と声を掛ければ、「あれ!」彼女が鏡を指さす。


鏡の向こうに映るのは、変わらないぼく達の姿。変わった様子はない。


けれど仲井さんは自分の持っているイラスト本を指さして、もう一度鏡を見るよう訴えた。


向こうにいる彼女は慌てた様子で映画雑誌を持っている。



は? 映画雑誌?


待て待て待て。それは今、ぼくが持っているんだけど!


急いで鏡のぼくの手元を確認すると、びっくりもびっくり。

仲井さんに返したはずのイラスト本を持っている。


現実のぼく達と違う本を持っていることに沈黙、怪奇現象に「ゆ、夢かな?」と、ぼくは震え声で彼女に尋ねた。


「そ、そうだと嬉しいよ」と、仲井さんも表情を引きつらせながら答えた。


念のために本を取り替えてみる。


すると鏡のぼく達は現実のぼく達と同じ本や雑誌を持っていた。

なんだ、今のは目の錯覚か。そう思って、本をもう一度交換するんだけど、持っている本達は変わらず……思わず気を失いそうになってしまった。


原因は鏡で決定じゃん。

ああ、夢なら今すぐ覚めて欲しい。


「なんなのこれ。鏡のぼく達が本を交換してくれないとか。学校の七不思議か?」


まったく同じ動きをするくせに、本と雑誌は元の持ち主の下に戻らない。

これが原因なのか? ぼくが仲井さんの気持ちを持っているのは、このせいなのか?


この後、ぼく達は何度も本を交換した。鏡のぼく達に変化はなく、気持ちは入れ替わることもなかった。

だったら、衝突事故を再現してみよう。


あの時のように思いきりぶつかったら、元に戻るかもしれない。


ただし、事故当時の加害者と被害者のポジションは入れ替わった。


これは仲井さんの申し出だ。


曰く、ぶつかるより、ぶつかられる方が痛いし怖い、とのこと。


ぼくとしては忠実に再現したかったけど、彼女の言い分もごもっともだ。素直に要求を呑むことにしよう。