自分自身で定めたテーマは小さな“夢”と“好きなもの”。
夢を否定されて自信を失う少女と、好きなものを好きと言えなくなる少年の話でした。

誰でもあることだと思います。

私自身、好きなものを好きだと言えなくなった時期がありました。
それが趣味であれ、ヒトであれ、好きなものを否定されたら、笑われたら、自分自身を否定されるような錯覚に陥り、ずいぶん落ち込んだものです。

他人はなんて思っていないんですけどね。
言われた本人は深く傷付いたり、それ自体を嫌いになってしまうことだってあります。
でも最後にそれを好きか嫌いかを決めるのは本人次第。他人が決めることじゃないんですよね……。

中井英輔はまさに他人に好きなものを露骨に否定され、つらい経験をした結果、自分自身を否定して、好きなものを嫌いだと思い込むようになりました。

だから仲井志穂と気持ちが入れ替わることで、どこかホッとしていたと思うのです。
自分の気持ちがなくなったことに。

でも、やっぱり好きなものを完全に嫌うことはできなかった。
自分から興味を失くすならまだしも、自分はまだまだ好きなのに、それを好きと言えない……嫌いだ。それは嫌いだ。そう思い込んでは傷付いていた。

これからも彼は、ギターと向き合う度に過去を振り返っては落ち込むことでしょう。どんなに前を向こうとしても、ふとした拍子に思い出してしまうこともある。


その度に、きっと仲井志穂が支えてくれる筈です。

彼の痛みを知っているのは、彼の気持ちを持っていた彼女ですから。