「確かさ。鏡って、本当の自分を映し出すんだったよね」
「え、そうだよ。だから、これの前でぶつかったわたし達は入れ替わったんだと」
鏡の向こうのぼくはきっと鏡の仲井さんの両頬を包んで、自分の方を向かせると、ゆっくりと唇を重ねているだろう。
そのままおでこにキスをして、抱きしめる姿も、真っ赤な顔をしたまま呆けている彼女も、鏡は瞬きもせずに見ているはずだ。
「茶化すのは悪い癖だよな。すぐ自分を偽る……だから真剣に言うよ。鏡の前だから正直になる」
これに関しては入れ替わる必要なんかないじゃん。
気持ちを感じ合わなくても、それを伝える手段をぼく達は持っているんだから。
「好きだよ。こうして志穂とキスをしたかった」
あしたも夢を見る彼女が、好きなものを好きだと言えるぼくがここにいたらいい。
もしも自分の夢が否定をされたり、傷付けられたり、好きなもので挫折してしまっても大丈夫。
その時は入れ替わったことを思い出せばいい。励まされたことを思い出せばいい。彼女が教えてくれたことを思い出せばいい。
きのうの弱い自分を受け入れることができたら、あしたの自分は、それを乗り越えられる。そうできるとぼくは信じてる。
「ねえ、今度は志穂の気持ちを聞かせてよ」
End.