「なに、ヒヤシンスの他に何か描いているの? べつに何を描いても驚きは……」


驚いてしまった。

最後のページにギターを持った少年の下書きが。

胡坐を掻いている少年の膝や頭には、ぶすくれたヒヨコが数匹のっている。


ギターを弾いている少年は、すごく楽しそうだ。

ヒヨコ達に向かって笑顔を作っている。


そのぶくすれたヒヨコは見覚えがあった。

あの学園祭で弾いた曲の楽譜にいた奴等だ。

じゃあ、そのギターを弾いている少年のモデルは。


「それ、学園祭で弾いた時の英輔くんをモデルにしているんだ。あの時の英輔くん、本当に楽しそうだったの。カッコ良かったし」
 

本当は完成してから見せようと思ったのに。

気恥ずかしそうに唇を尖らせて、ぶすくれヒヨコと同じになる仲井さんにぼくは頬を緩ませてしまう。

そっか、あの時のぼくはこんな風に笑って弾いていたのか。


再来年の学園祭も、こんな風に笑って弾いていられるといいな。


「志穂。これ、完成したらぼくにくれないか?」

「え?」


「忘れたくないんだ。こんな風に弾いていたぼくを。また、いつか、落ち込んでギターを嫌いになりそうになったら、これを見て励まされようと思って」


きっと、この絵を見る度にぼくは思い出すだろう。

ギターが好きな自分を。好きなものを好きだと言える、正直な自分を。入れ替わったあの日々を。


ぼくは何一つ忘れたくない、仲井さんと入れ替わった時間を。


彼女が全部ぼくに教えてくれた。自分を偽らない大切さを。本当の自分と向き合う勇気を。そして人を好きになる気持ちを。

ぼくも彼女に教えられることはあったかな。あったとしたら、ぼくはとても嬉しいよ。