けど、正式にお付き合いを始めたらそうもいかない。


ぼく的に苗字呼びのままでも良かったんだけど、仲井さんが友達にこっそりと「中学時代の女の子は名前呼びなの」と、相談していたところを聞いてしまった。


菜々の言う通り、仲井さんは彼女に嫉妬していたんだ。

その理由は後から、本人に直接聞けた。

曰く、ぼくのギターの気持ちに付録として菜々の気持ちがくっ付いていたそうだ。

それはきっとギターを通して旭や菜々と知り合ったせいだろう。


彼等に対して貫くような痛みを感じることもあれば、ほんのりと恋心を感じることもあったそうだ。


それを聞いてしまえば意地でも名前で呼ぶしかない。

そりゃ菜々のことは好きだったけど、今好きなのは仲井さんなんだ。誤解はされたくない。


ぼくは腹を括り、彼女に宣言した。


「もうナカイって呼んでも反応しないから。仲井さんも、ぼくがうっかりナカイって呼んでも反応しないでね」


宣言から一週間は、思い出すだけでも恥ずかしい日々だった。

なにかと癖でナカイと呼んでしまう仲井さんを無視したこともあったし、逆にぼくが仲井さんの下の名前を呼ぶのに照れてしまうこともあった。

「英輔くん」と呼ばれた時には慣れていなさ過ぎて、変な声で返事をしてしまったっけ。


あの自称恋愛マスターの柳ですら、ぼく達のやり取りに「もう無理。お前等甘過ぎる」と、言って逃げ出してしまったという……あまり、あの時のことは思い出したくない。恥ずかしさで死ねるから。


しょうがないだろ。仲井さんはぼくの初カノ。

なにもかもが初めてなんだから、どうすりゃいいのか分からないんだよ。

カッコイイことはしてやりたいけど、下手に気取ったってボロが出るだけだ。


でも、これだけはキッパリ言える。

彼女のことは大切にしたいとは思っている。


今も仲井さんとお付き合いは続いている。

それは期間限定ではなく、お互いの意思を持ったお付き合い。


これから先、彼女と続いていくかどうかは分からないけど、ぼくは仲井さんと出逢えたことを本当に感謝している。

あの不思議な体験だって感謝も感謝だ。


あれがなければ、ぼく達は性格上、合わないと思って話すことすら儘ならなかっただろうから。