「掃除が終わったら、お友達さんと気を付けて帰って下さいね」


館長からそんなことを言われて、ぼくと旭は目を点にする。

あれは君達のお友達でしょう? と、館長が出入り口を指した。

そこには帰った筈の菜々達の姿。


ずっと様子を見守っていたようで、ぼく達と目が合うと控えめに手を振られる。が、旭の顔を見てメンバーは慌てたように逃げ出してしまう。


どうも旭は自分の情けない姿を他のメンバーに見られたくなかったようで、


「お前等ざけんなよ!」


怒鳴り声と共に扉に向かって走り出す。


「なに覗き見しているんだよテメー等!」


廊下から聞こえてくるのは、「だってふたりが心配で!」「旭、あそこはもっと泣いてもいいと思うぜ」「ばか、もう目が赤いじゃん」「まじ全員シバく!」


あーあーあーうるせぇの。

ぼくひとりで片付けをしろってか? 勘弁しろって。


こりゃ今度みんなと話すは撤回かもな。

この後、メンバーと話してもいいかもしれない。



今のぼくなら、それもできそうだ。



「明日、志穂にこのことを話そう」



きっと喜んで聞いてくれるに違いない。

ぼくは腰を上げて、出て行った旭を呼び戻すために扉へ向かう。


廊下では見られたことに、フツフツと怒りを噛みしめている旭の姿があった。

片付けよう、声を掛けるとあいつから返事をもらった。


それはさっきぼくが聞いた質問の答え。


「おれもギターが好きだ。やっぱ、ギターが好きでしょうがねえよ。英輔……おれ、お前を傷付けてから、好きになることすら許されない気がして。気がしてさ。おれ」


怒りの感情を表に出したことで、別の感情も一緒にこみ上げてきたんだろう。

大粒の涙を零しながら、あいつは何度もギターが好きだと答えた。なんども、なんども。


「知っているよ。ぼくもお前も、根っからのギターバカだからな」


小さく笑みを浮かべ、ぼくは旭の背中を軽き叩き、相づちを打った。なんども、なんども。



⇒【E】