「なあ旭。今週の日曜日、暇か? 観たい映画があるんだけど」
ぼくの映画好きは今も健在だ。
ギター好きが上回っているだけで、映画が好きな気持ちだって忘れていない。
一番じゃなくなったけど、映画は今も好きだ。映画はぼくを支えてくれたものだから。
そして、こんな時に役立つ。
すれ違っていた空白を埋めるために、小さなきっかけを作ってくれるんだから。
旭に言う。
今話題のホラー映画がある。彼女は付き合ってくれないから、一緒に行ってくれないか。そして映画の帰りに楽器屋に行こう。あの頃のように。
また旭とギターの話で盛り上がりたい。
「練習だってしないとな。いつか、お前とステージに立つために。旭、今度ぼくにギターを教えてくれるか? 今度、高校の友達に教えなきゃいけなくなってさ。ぼくはもっとギターを上手くなりたいんだ」
「おれで、いいのか?」
「何言っているんだよ。お前以上に上手い奴をぼくは知らないんだけど? なんなら、今から教えてくれてもいいんだぞ。残り二十分あるし」
ほら、お前のギターを貸せと両手で手招きをする。
戸惑いを見せていた旭が、「ほら」自分のギターを差し出して、今日はじめて小さな笑みを零してくれた。
ちょっぴり目が充血していたことは見ない振りをする。
「今週の日曜だな。楽しみにしているよ」
あの頃の時間が、今ここに蘇ったのだと実感する。
「旭、ギター変えたか?」「バイトで買ったんだ」「バイトしてんだ」「夏だけしたんだよ」「なんのバイト?」「引っ越し屋」「まじかよ。それ、きつそう」
そんな他愛もない会話をしながら、短い時間を過ごす。
たった二十分しかない時間だったけど、旭にギターを教えてもらった。
フィンガリングの仕方から、コードの切り替えから、音の覚え方から。
旭のように指が上手く動かなかったし、あの頃に比べてずいぶん下手くそにもなっていたけど、旭は熱心に教えてくれた。ぼくも熱心に話を聞いていた。
だから二十分なんてあっという間で。
公民館の館長に声を掛けられて、九時を過ぎていることに気付いた。