「英ちゃん。来てくれたんだ。今、旭を呼んでくるよ」
「いや、いいよ。ぼくから旭に会いに行く。そういう約束だしな。まだホールにいるんだろう? ちょっとあいつと話してくるよ」
まずは旭と話さないと。
メンバーと話し合う以前に、ぼくと旭は事故の被害者、加害者という関係だ。
それを解消しないと、次の段階には進めそうにない。
あいつもいつまでも引きずるだろう。そんなこと、ぼくは望んでいない。
菜々達にはまた今度話そうと微笑んだ。
もう着信拒否やブロックをしていないことを告げて。
すると菜々が去り際、ぼくにこんなことを聞いてくる。
「彼女さんとは上手くいっているの? あの子、わたしにすごく嫉妬していたから、気になっちゃって」
「え、嫉妬?」
「気付いてなかったの? 学園祭の時、わたしにやきもちを焼いていたみたいだよ。英ちゃんを取られたくなかったみたいだね。可愛い彼女さんじゃん」
仲井さんが嫉妬、してくれていたなんて。
それを知ってしまったらもう、口元が緩みっぱなしになる。
明日会ったら聞いてみようかな。拗ねるかな。ヒヨコになるかな。特大のバカを浴びせてくるかな。
そんなことを考えつつ、ぼくは階段を上ってホールに向かった。
聞こえてくる音はギターだけ。そっと扉を開けると、広いホールの真ん中を陣取っている人間が一人。
胡坐を掻いてギターを弾いているのは、誰でもない旭だ。
前に菜々が言った通り、ギターを弾く旭は無表情に近い。
まったく楽しくなさそうだ。
お前もぼくと同じで根っからのギターバカのくせに、素直にギターを弾けなくなっていたんだな。