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夢や好きなものを否定されて、傷付かない人間はいない。

ましてやそれを馬鹿にされたり、見下されたり、笑われたりしたら、そのもの自体を嫌うことだってある。


仲井さんはお父さんから否定されることにより、自分の夢を口にする勇気を失い、ぼくは好きなものから逃げ出してしまった。


夢や好きなものを口にするだけで、ひどく傷付くこともあるのだとぼく達は知ってしまった。

気持ちが戻った今、ぼく達は何度もその痛みと向き合うことになるだろう。


実際、ぼくはギターを弾くことを躊躇ってしまうことが多い。

ギターが好きだという自分を否定することはなくなったけど、過去のトラウマから未だにギターを素直に好きだと口にすることが出来ない。


気持ちが元に戻ったからこそ、ぼくはこの痛みを自分で乗り越えないといけないんだろう。


弾いていると時々自分に才能がないんじゃないか、とか、下手くそだからもうやめてもいいんじゃないか、とか、練習するだけ無駄じゃね? とか……そんな卑屈に襲われることがある。


それは仲井さんも同じようで、


「またお父さんに反対されたよ」


今度はイラストレーターの年収を調べられ、これでもやっていけるのか、と言われたそうだ。


「仕事と両立しながら副業としてやることも難しいから、趣味程度にしておけ、だって。そんなの分かっているのに。
年収ならわたしだって調べたよ。それで食べていける人が一握りだってことも知っているのに。もう、なにも言い返せないのが悔しい。ぐやじぃ」


「その様子じゃ、またお父さんと喧嘩したっぽいね」


「した。思いっきり喧嘩して、自分の言いたいことを言った。お父さんったら、わたしの調べたところをほじくり返してチクチク言ってくるんだもん。
それ、わたしが前に言ったよね? ってところまで……ゼンッゼン話を聞いていないんだから」


お互いに好きなもの、夢で苦労しているようだ。