「裏門だよ。中井くん、急いで!」
「ありがとう、仲井さん! さすがはナカイの相棒!」
「誰がナカイの相棒なの」
笑い声に笑いで返し、ぼくは模擬店の並ぶ通りを横切っていく。
まだまだ文化祭を楽しもうとする生徒や一般人の間をすり抜け、途中で足がもつれそうになりながらも、裏門まで全力で走る。
三段しかない階段を飛び下りると、数十メートル先に見えるふたりの背中。
「旭、菜々――!」
小さくなっていく人影に向かってぼくは叫んだ。
驚いたふたりが足を止めて振り返ってくる。
言いたいこともろくに考えず、ここまでやってきたものだからぼくの頭は真っ白だ。
気の利いた言葉とか、観に来てくれてありがとうとか、そういうのすら思い浮かばない。
とっさに出てきたのは、さっきの答えだった。
「ぼくはやっぱりギターが好きみたいだ。うそはつけなかった」
「英輔」旭が体ごとこっちを向く。ぼくは微笑んだ。
「もう一度弾くよ。ずいぶんと時間は掛かったけど、ぼくはギターを諦められそうにない。これからも時間は掛かるけど、あの頃のように弾きけたらと思っている……いつかお前達とも話し合うよ」
今すぐ話し合う、は無理だけど、少しずつ前進していきたい。
だから待っていて欲しい。
今度はぼくからきみ達に歩み寄るから。
自分の気持ちを持って、ちゃんと話し合う。もう逃げない。
「今日は来てくれてサンキュな。お前達が観に来てくれて嬉しかった」
うそ偽りない“ありがとう”を贈ると、泣きそうな顔をした旭が「良かったよ」あのライブは本当に良かったと直接伝えてくれる。
「また、聞かせてくれよ。お前のギター。おれ、ずっと待っているから。可愛い彼女によろしくな。あの子、お前のためにおれ達に声を掛けてきたんだからな」
最後の台詞に目を瞠ってしまう。
仲井さんはぼく達のために、伝言役を買って出たのか。
いや彼女のことだ。
ふたりに声を掛けて、ぼくに会せようと思ったんだろう。今のぼくなら、きっとふたりと話せる。そう信じて。
困ったな。どんどん仲井さんに惚れ込む自分がいるんだけど。