どうしてもイラストの本を返したくなかったんだ。
このまま借りパクしてやろうかと思うほど。
それは仲井さんも同じようで、何度もぼくに視線を投げては歩み寄ろうとしていたんだけど、結局それができずに終わってしまう。
わざわざビニール袋に入れて、雑誌を返そうとしてくれているのに、途中で踵を返してしまう。
ぼく達の異常はそれだけじゃない。
例えば仲井さんが友達とイラストの話をしていると、何故かぼくの方が楽しくなり、ハイテンションになる。
同じようにぼくが友達と映画の話で盛り上がっていると、彼女がそわそわとぼくばかり見てくる。
最高に最悪だったのは、教室でぼくの友達と、彼女の友達がそれぞれ「ミュシャの展覧会があるんだけど」「試写会に応募してみなか?」と話を切り出した時だ。
つい、展覧会に反応したぼくは立ち上がって振り返り、「展覧会に行きたい!」と、発言。
仲井さんも立ち上がって、「試写会に応募する!」ぼく達に向かって返事した。
あの時の空気の気まずさったら……。
我に返ったぼくと仲井さんは、サーッと青ざめてしまうし、各々友達はぽかーんと交互にぼく達を見やってくる。
耐え切れなくなったぼくは、仲井さんを教室から連れ出して逃げた。
そして人気のない廊下まで走ると、ぼくと仲井さんは嫌でも現実と向かい合うはめになった。
「な、なあ。仲井さん。やっぱり、ぼく達、昨日からおかしいよ。ぼくは仲井さんとぶつかってから、興味もないイラストに興味を持ったり、絵を描いたりし始めたんだ。それだけじゃない、仲井さんが友達とイラストの話をしていると、ぼくが楽しくなる」
「わたしだって、映画のことで頭がいっぱいだよ。昨日の帰りはレンタルビデオ店に行って一時間くらい、DVDを眺めていたんだから。ホラー映画なんて大嫌いなのにそれすら眺めていたんだよ。試写会だって……興味ないのに返事しちゃうし。まるでわたしが中井くんになった気分」
半べそで主張する仲井さんが落胆したように肩を落とす。
まるで、わたしが中井くんになった気分。その言葉にぼくは、思わずつぶやく。
「なら……ぼくがイラストに興味を持ったのは、仲井さんの、気持ちなのか?」
うそだと思いたいし、こんな事態はアリエナイだろうと叫びたいけど、ぼくも仲井さんになった気分なんだ。
否定したって自分達の現状を他に説明できる理由も挙げられない。