◇◆◇
体育館のステージは既に十二時から始まっている。
パンフレットを見る限り、今は演劇部の劇があっているようだ。
体育館の外まで演劇をしている声が聞こえてくる。
噂の学生版昼ドラのようで、何かとヒステリックな声が聞こえてきた。
ぼく達の出番まで残り五組。
それまで柳達と何度も打ち合わせを重ねた。
緊張のせいか宮本が自分のギターの腕に、「やべぇかも」と嘆いていたけど、「楽しもうぜ」柳が明るい声で励ましていた。
これは自分達のため、誰かのためのライブじゃない。
プロよりは劣るし、傍から見れば下手くそかもしれない。
それでも自分達は一生懸命にやってきた。それを全力で出し切ればいい。そう言って。
柳は出し切ることに意味があるのだと得意げに言った。
中途半端に尻込みしたり、緊張したりするよりかは自分のすべてを出し切る。その方が絶対に楽しいと、口角を持ち上げる。
「来年はおれ、絶対にギターを弾きながら歌うからな。またこのメンバーでライブしようぜ」
「気が早いんだよ柳。まだライブが終わってもねーのに。ほんと、お前の能天気さを見ていると自分の緊張がばかみたいに思える」
いつの間にか宮本が本調子を取り戻していた。
「中井も参加だぜ」
片目を瞑ってくる柳に、ぼくは軽く肩を竦めた。
「ばーか。来年は体育祭があるから、学園祭はねーよ」
「げっ。そうだった。んじゃあ、練習まで一年あるな。めっちゃ上達しようぜ!」
柳はどこまでいっても柳だった。
再来年に向けて練習をしようとメンバーに訴えている。
宮本の言うように気の早い奴だな。
音楽が好きだってことがよく分かるよ。
柳のギターを抱えていたぼくは、そっと弦を指先でなぞって感触を確かめる。
鉄製の弦のせいで、ぼくの指先はマメばっかりだ。
潰れては痛い目を見て、皮が厚くなった頃にまたマメが潰れて。それを繰り返して。
それでもギターをやめたいと、あの頃は一切思わなった。
その指を犠牲にしてもギターが好きでしょうがなかった。
少しずつ上手くなることに喜びを覚えたし、なによりギターに夢中になっている自分が好きだった。