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体育館のステージは既に十二時から始まっている。

パンフレットを見る限り、今は演劇部の劇があっているようだ。

体育館の外まで演劇をしている声が聞こえてくる。

噂の学生版昼ドラのようで、何かとヒステリックな声が聞こえてきた。


ぼく達の出番まで残り五組。

それまで柳達と何度も打ち合わせを重ねた。


緊張のせいか宮本が自分のギターの腕に、「やべぇかも」と嘆いていたけど、「楽しもうぜ」柳が明るい声で励ましていた。

これは自分達のため、誰かのためのライブじゃない。

プロよりは劣るし、傍から見れば下手くそかもしれない。


それでも自分達は一生懸命にやってきた。それを全力で出し切ればいい。そう言って。


柳は出し切ることに意味があるのだと得意げに言った。

中途半端に尻込みしたり、緊張したりするよりかは自分のすべてを出し切る。その方が絶対に楽しいと、口角を持ち上げる。

「来年はおれ、絶対にギターを弾きながら歌うからな。またこのメンバーでライブしようぜ」

「気が早いんだよ柳。まだライブが終わってもねーのに。ほんと、お前の能天気さを見ていると自分の緊張がばかみたいに思える」

いつの間にか宮本が本調子を取り戻していた。

「中井も参加だぜ」

片目を瞑ってくる柳に、ぼくは軽く肩を竦めた。

「ばーか。来年は体育祭があるから、学園祭はねーよ」

「げっ。そうだった。んじゃあ、練習まで一年あるな。めっちゃ上達しようぜ!」

柳はどこまでいっても柳だった。

再来年に向けて練習をしようとメンバーに訴えている。


宮本の言うように気の早い奴だな。

音楽が好きだってことがよく分かるよ。


柳のギターを抱えていたぼくは、そっと弦を指先でなぞって感触を確かめる。

鉄製の弦のせいで、ぼくの指先はマメばっかりだ。

潰れては痛い目を見て、皮が厚くなった頃にまたマメが潰れて。それを繰り返して。


それでもギターをやめたいと、あの頃は一切思わなった。

その指を犠牲にしてもギターが好きでしょうがなかった。

少しずつ上手くなることに喜びを覚えたし、なによりギターに夢中になっている自分が好きだった。