「英輔。良かった、会えて。あー……そのさ」

「旭。今もギターは好きか?」


突拍子もない質問に旭が困惑した顔を作る。


好きか、嫌いか、その二択なら旭は迷わず前者を選ぶだろう。

そして今までのぼくは後者を選ぶだろう。


正反対の選択をすることでぼく達は決別をした。

お互いに根っからのギターバカなのに、ぼく達は好きなものに夢中になるばかりにすれ違ってしまった。


今の旭は素直に好きなものを好きだと言えないんだろうな。


ぼくと同じだ。

おかしいよな、反対の選択を取ったのにさ。


「お前は?」

旭は何も答えずに質問で返してくる。

それに気にすることなく間髪容れずに答えた、分からない、と。


「ギターが好きなのか、嫌いなのか。今のぼくにはよく分からない。だから答えを探しに体育館に行くよ。二時から友達のライブがあってさ。ワケあってぼくはギターを弾く」


「お前……弾くのか?」


聞き返してくる旭に向かって頷く。


「そうだよ。あんなに嫌いだとか言って拒んでいたのにな」


それでも今、ぼくはあの頃のようにギターを弾いてみたいと思っている。

ただただ純粋な気持ちで好きだったものと向き合ってみたい。


きっと、このライブが終わったら答えを見つけている。そんな自分がいると信じている。


「ぼくは、いつも旭達を理由にして逃げていた。ギターを弾く、弾かないは自分で決めることなのにな。だからもうやめる。お前達を理由にするの」


自然と頬が崩れ、ニッと相手に向かって笑ってみせる。

この瞬間ぼくは事故を起こした旭やメンバーの謝罪を受け入れられそうだと思った。

許すことはまだまだ難しいかもしれないけど、ぜんぶが終わったら皆と話し合える気がする。


仲井さんに時間を促され、ぼくはふたりに片手を挙げて駆け出す。

あんまり時間を潰していると、柳達にまた冷やかしを浴びせられそうだ。



「英輔!」



周りの目をもろともしない声の大きさだ。

足を止めて振り返ると、「あのさ!」旭が驚くほど切迫した顔でぼくに聞く。


「そのライブ。おれ達が観に行ってもいいか!」


なんだよ。そんなこと一々聞くことじゃないだろ。


観客にまぎれていればバレないだろうに……ダメって言ったらどうするんだよ。律儀な奴だな。



「ああ。待ってるよ」