目の前に一筋の光が差し込んでくる気分だった。


そうだ、ぼくは何も奪われていない。


ギターを弾くことを恐れて手放したのも、ギターから目を逸らしたのも、それを嫌いだと思うようになったのもぼく自身が決めたこと。


旭達とすれ違っただけで、ぼく自身は何も失っていない。

逃げてしまっただけだ。


それを仲井さんは教えてくれる。

そして誰より信じてくれている、ぼくが自分と向き合えることを。


脳裏に過ぎっていた過去の陰口が、笑い声が、責め立てる声が、消えていく。

それは今、ぼくを信じてくれている人がいるから。


もういい、どうでもいい。

過去とか、旭達と何かあったとか、そんなクダラナイこと。


今と真剣に向き合うんだ。ギターと、自分の気持ちと、これからのことを。


ぼくはベンチから飛び下りた。


仲井さんを呼ぶと、菜々の脇をすり抜けて体育館に向かう。


「英ちゃん」


顧みてくる菜々の横を通り過ぎた仲井さんがぼくの隣に並んできた。


彼女と視線が合うと、自然と笑みが零れる。


ふと前方を見ればトイレから戻って来たであろう旭がこっちに向かって歩いてきた。


ぼくの姿に気付くと、目を丸くし、そして決まり悪そうに口を曲げる。