「今の中井くんだって、すごく努力しています。
形は違うけど、楽しそうに映画の話をしたり、友達のために力になったり。自分は濡れる覚悟で、コンビニまで傘を買いに行くお人好しなところだってあります」
「な、仲井さん」
突然の褒め殺しにぼくは戸惑った。菜々も呆けている。
だけど、仲井さんは止まらない。まったく止まってくれない。
「ギターだって、本当に奪っているなら中井くんは弾きたいとも何とも思っていない。
わたしは知っています。中井くんがトラウマを克服しようとしていることを。自分と闘っていることを。本当の自分と向き合おうとしていることを。中井くんの気持ちは全部分かっています」
知っているからこそ、安易に奪ったなんて言わないで欲しいと仲井さん。
つらい過去があることは知っている。話も聞いている。ギターを弾けなくなったことも、ぜんぶ知っている。
だけど、本当にそれを奪えているなら今の中井くんはなんだ。優しくないのか、友達のために力になる姿は何なのか、楽しそうにしている姿は嘘だというのか、と彼女は頬を上気させて訴えた。
「中井くんから何も奪えていないことを知って下さい。傷付き傷付け合っただけで、何も奪えていない」
奪われていない?
だって、ぼくはギターが弾けなくなって……戸惑っていると、仲井さんがぼくの顔を覗き込み、強い意志を宿した瞳で見つめてくる。
「自分に嘘をつくことはやめたんでしょ。中井くんらしくないよ。ちゃんとわたしの目を見て、きみはわたしになんて言った?」
「ぼ、くは」
「隠れてしまっているだけで、中井くんの気持ちはちゃんとここにある。なにも失っていない」
反則だ。
仲井さん、本当に反則だよ。
「中井くんの気持ちにどこまでもついていく。わたしは、そう覚悟していっしょにいるって言ったんだよ」
そこまでぼくのために必死で訴えてくれるなんて。
そして、それが友達として言っていることじゃないことくらい、ぼくにだって分かった。
頬どころか耳まで真っ赤にしているんだ。
そこまで鈍感じゃない。
彼女は意識してくれている。ぼくという男を。ずっと支えてくれたのは、友達としてじゃなくて。
「わたし中学時代の中井くんは知らないけど、今の中井くんなら知っている――ねえ、中井くん。きみは弱くないし、何も奪われていないよ」