欠かさず練習には来る。演奏も上手くなった。
でも、誰より表情がなくなった。
まるで楽しんではいけないと自分で枷をしているように。
そんな旭をどうしても見ていられないのだと、菜々が目尻に涙をためる。
「一度英ちゃんと真剣に話さないと、あいつ……いつまでも思い詰めたようにギターを弾くから。ごめん、ごめんね。英ちゃんが被害者なのは分かっているけど」
本当だよ。ぼくにそれを教えてどうするんだよ。
しかも泣くとかフツーに卑怯じゃないか。
ぼくが泣かしたみたいになるだろ。
菜々にほのかな恋心を持っていた時期だってあったんだ。泣かれると、まじ困る。
いやでも冷静になると、菜々は旭のために訴えているのであって、べつにぼくのためじゃない。
都合が良い話じゃないか。
好きな男が苦しんでいるから、かつてのメンバーに話し合いを交渉するなんて。
「被害者だと分かっているなら、もう関わらないで欲しいよ。ぼくは……そっとしておいて欲しいんだ。旭のためなのは分かったから」
「ち、違う。もちろん、それもあるけど、英ちゃんと真剣に話し合いたい気持ちの方が強いの。あの時、どうしてわたし達は英ちゃんをハブったんだろうって」
あの頃はただただ上手くなりたい気持ちが強くて、ステージに立ちたい気持ちが優って、ぼくの凡ミスが足を引っ張るばかりで。それが無性に腹が立って。
だから責め立てた。
自分達だって本当はところどころ凡ミスがあったのに、少し数が多いぼくを責め立てていた。
責めるんじゃなく、どうしてミスをするのか一緒に悩むべきだったのに。
「知っていたのにね。英ちゃんが皆のために楽譜を用意したり、付箋を貼ったり、最後まで残って練習をしていたことも……努力も、楽しそうに演奏していることも、優しいところも、わたし知っていたのに。全部奪っちゃって」
「中井くんから、なにも奪えてないですよ」
すると今まで傍観者に回っていた仲井さんが間に割って入って来た。びっくりもびっくりだ。え、なんで仲井さんが入って。