なら旭もいるのかよ。まじかよ。最悪のタイミングなんだけど。
誤魔化していた手の震えが本格的になる。
だめだ、どうしても止められない。
菜々と顔を合わせるだけで陰口が、笑い声が、責め立てる声が……ああ、手が震える。
どうにか手を握り締めると、「旭は?」中学時代のメンバーの名前を紡ぐ。
あいつもここにいるようだけど姿が見えない。はぐれたのか?
菜々は違うとかぶりを横に振り、トイレに行ったと簡潔に答えた。
そっか、ならすぐに旭も来るんだな。
移動しないと、旭や菜々がぼくに会いに来たとしても、ぼくは会いたいと一抹も思わない。
ベンチから腰を浮かした、その瞬間、菜々から待って欲しいと駆け寄って来る。
両肩に手を置いて、旭が来るまで待って欲しいと何度も頭を下げられた。
待つ義理なんてないと突っぱねても、菜々は諦めずに旭の話を聞いて欲しいと声を強くする。
「あいつ、英ちゃんに謝りたいの。ずっと、謝りたくて。わたしも謝りたい。英ちゃんに、心から」
「お前達は謝ってきたじゃないか。ぼくは何度も聞いたよ。これ以上、謝られたって何も出ない。分かっているだろ? ぼく達は終わったんだ」
何を言われたってぼくはメンバーと会う気もないし、旭達の下に戻る気もない。話を聞くつもりもない。
だってぼく達の間には何もなかったのだから。そう“何もなかった”んだ。もう関わらないでくれよ。
菜々の手を払うと、
「こんなこと英ちゃんに言うのは間違いだと思っている」
だけど、もう見ていられないのだと彼女は下唇を噛みしめてぼくに叫んだ。旭を救って――と。
は? 突拍子もない台詞に間の抜けた声を出してしまった。
「あいつ、英ちゃんに怪我をさせてから……ずっと自分を責めていて。英ちゃんがギターをやめたのは自分のせいだって。英ちゃんからギターを奪ったって」
メンバーの責任なのに、誰よりも責任を感じているのは旭だと菜々は目を伏せる。
あの事件以降、旭は笑顔でギターを弾かなくなった。
ただただ作業のようにギターを弾いては楽譜を目で追っている。
なのに、最後まで練習に残ってギターを弾き続けている。
いつか、ぼくが現れた時にその腕前を見せるために。
できないところは教えられるように。
責めるんじゃない、できないところを一から教えられるように。