一回りした後は、校舎の中庭に設置されているベンチで休憩を取る。
スマホで時間を確認する。
あと一時間半でステージだ。
三十分前には柳達と合流しないと。最終チェックもあるから。
「緊張している?」
いつの間にか、ぼくの手は震えていたようだ。
それを隠すためにスマホをスラックスのポケットに捩じり込む。仲井さんには情けない姿は見せたくない。
「まあ、ちょっとね。初めてステージに立つから。夢、だったんだけどさ」
本当は五人でステージに立つ、が夢だったんだけど、それは叶わない夢になってしまったから。
「上手く弾けるかな、とか……メンバーに迷惑を掛けないかな、とか……思う自分がいるんだ。どうしても過去にとらわれるぼくがいて」
「でも、柳くんは言っていたよ。楽しむことが優先だって。中井くんも楽しまなきゃ」
そうなんだよな。それは分かっているんだけど。
何度も手を開いては結ぶ。脳裏に過ぎる陰口や、笑い声や、責め立てる声が迫る時間と共に大きくなるような気がする。
何も思わないようにしないと。仲井さんが痛い思いをする。
それは分かっているのに。
「中井くん」眉を下げた仲井さんの声と、「英ちゃん」聞き覚えのある声が重なった。
心臓が痛いほど高鳴る。
ハッと顔を上げれば、ぼく達とは違う制服を着た少女がひとり。菜々だ。
ぶわっと嫌な汗が出始める。なんで、お前がこんなところにいるんだよ。
「菜々。なんで」
「……英ちゃんの通っている学校で学園祭があるって知って、旭が行きたいって言ったから。今日なら英ちゃんに会えるかもってしれないって」