ふと弾く前から指先が震えていることに気付く。

手を結んでは開いてみるけど、なかなか震えが止まらない。

気持ちが無くても体が恐怖を覚えているのかも。出鼻をくじかれた気分だ。


「中井くん、落ち着いて」


指先を両手で包まれると、不思議なことに震えが止まった。

ったく、ぼくはどれだけ仲井さんを心のよりどころにしているんだろうな。


ホント、今のぼくには彼女が必要不可欠なんだと思う。


「久しぶりだから下手かもしれないけど……弾いている間、傍にいてくれないかな」


うんっと仲井さんが大きく頷いてくれる。

それだけでぼくは強くなれる気がした。


大丈夫、仲井さんが傍にいてくれるからギターを弾ける勇気が持てる。


まずは一歩踏み出そう。




午後六時五分。


「来ないか中井……明日は来てくれっかな。返事だけでもくれたらいいんだけど」

「柳、待っていてもしょうがない。練習しよう。時間が限られているから」


第二音楽室から聞こえてくる柳と宮本の声。

ああ、もう練習は始まっているようだ。


廊下を走るぼくはラストスパートを掛け、閉められている第二音楽室の扉を勢いよく開けた。

「ちわーっす。今日から入る新人なんですけど、練習場所はここであってます?」

ノリよく挨拶した向こうには、今まさに練習をしようとしていた柳達がいた。


ぼくの登場に誰よりも反応したのは、ぼくにギターを頼んできた柳。

目を真ん丸にしたと思ったら、くしゃくしゃっと顔を歪めて駆け寄って来る。


そんな怪我人にぼくは悪態をつく。


「柳、お前はどういうチューニングしているんだよ! むっちゃやりにくいんだけど! ギターを調節する道具がなかったから、調節はできなかったし……後で貸せよ」


半べそになっている柳の額を軽く叩くと、何度も頷いて飛びついてくる。

怪我人のくせに、なんて身のこなしだよ。