「こわいんだ。ギターと向き合うことが。それをまた好きだと思うかもしれない、自分がいそうで」


こみ上げてくるのは、飾りっ気のない本音だった。


「ギターに打ち込むぼくを否定されることが、なによりも怖くて。陰口を叩かれたら、今度こそぼくは崩れそうで」


そうなる前に、ぼくはいつも自分を否定していた。

他人から否定されるくらいなら、自分で自分を否定した方がずっとマシだと思ったから。


「中井くん、周りがきみを否定してもわたしは味方でいるよ。自分の気持ちと向き合ってみよう。これはチャンスだよ」

「向き合う……仲井さん、ぼくのせいで気分がまた悪くなるかもしれないよ」

「きみの気持ちを受け止めることは平気。わたしが一番つらいのはね、中井くんが自分に嘘をつき続けることなんだ。いっしょに泣きたくなっちゃう」


もう、嘘をつくのはやめよう。自分の気持ちと向き合ってみよう。仲井さんが包み込んだ左手をさすってくる。


「わたしは中井くんの本当の気持ちと向き合うから、中井くんは自分の本当の気持ちと向き合ってみて。
大丈夫、ひとりじゃない。わたし達は“ナカナカ”コンビ、いつもいっしょだよ」


視聴覚室に吹き抜けていく風は火照った頬の熱を攫った。

残暑が弱くなった涼しい風は、少しならず秋を思わせてくれる。


その秋風を一身に浴びたぼくは、心の底から応援してくれる女の子と瞬きも目が放せない。

どうして、そこまでぼくにしてくれるのか、とさえ思った。


「こ、わいんだ」

「うん」


彼女がいっしょにいてくれるだけで胸が熱い。


「すごく、こわいんだ。自分の気持ちと向き合うことが。もう傷付きたくなくて」

「うん」


本当の自分と向き合おうとするだけで心臓が痛い。


「だけど、本当は」


こみ上げてくる感情のせいで呼吸を忘れそうになった。



「もう一度、大好きだったギターを弾きたい――あの頃みたいに、夢中になってギターを弾いてみたいんだ」



口にして気付く、ぼくの本当の気持ち。

ああ、そうか、逃げてばっかりだったけど、本当のぼくはこんなにもギターを想っていたのか。


彼女の両手に右手を重ねた後、ぎゅっと力を込めて握るとぼくは席を立った。

仲井さんから手を引き、視聴覚室を飛び出す。


向かった先は音楽室準備室。

そこで柳のギターを探し当て、それを持って彼女のいる教室に戻る。


席に着いて楽譜を確認する。

弾いたことない曲だったけど、ある程度は楽譜を見れば分かる。


「弾けるかな」


久しぶりに抱えるギターと指に引っ掛ける弦。

懐かしい気持ちはどこかしょっぱく感じた。