だから、ギターを諦めるに諦められない。

ちゃんと好きなものと向かい合わず、嫌いだと言って逃げてしまったから忘れられない。


そうして身を守ってきたぼくを否定するつもりはないけれど、でも、ぼく自身は不満でしょうがないのだ、と仲井さんは人差し指でぼくの胸を突いた。


そして映画という趣味で好きなものを偽っていることに、好きなものを嫌いだと思い続ける、この現実にぼくは嫌気が差している。


彼女はハッキリと言った。

きみは好きだったギターと向かい合いたいんだよ、と。


「本当は否定をし続ける自分に疲れているんだよ、中井くん」

「そ、んなこと」


「わたしには嘘が通らないよ。向き合うことが……怖い?」


そっと伸びてくる両手がぼくのマメだらけの左手を包んでくる。

向かい合うことが怖い?


その通りだ。ぼくは怯えている。


もし向き合ったら、また傷付くんじゃないかって……そう思って。


向き合おうとする度に、脳裏にこびりついた悪口や笑い声、ギターを弾くぼくを否定する声が蘇るんだ。


ここにかつてのメンバーがいないと分かっていても、ぼくは――。


「怖い気持ちは、わたしに全部預けてよ。中井くん」

「え」


「せっかく気持ちが入れ替わっているんだよ? それくらい利用しなきゃ。
きみはただ、真っ白な気持ちでギターと向き合ってみればいい。
そして、答えを見つければいいんじゃないかな。今度は誰を理由にすることもなく、自分で決めればいいんだよ」


ギターより映画の方に気持ちを寄せたいならそうすればいいし、やっぱり映画よりギターを取りたいならそうすればいい。


どんな答えを出すにしても、それはぼくが決めるべきだと仲井さんが微笑んでくる。


そのためにも一度、ちゃんと向き合うべきだ。自分の気持ちと。


「中井くん。本音を聞かせて。ギターは嫌い?」


嫌いだ、あれは傷付けるばかりのもの。

マメもできるし、手入れも面倒だし、何をするにしても手が掛かる。ギターは嫌いだ、大嫌いだ。


いつも自分に言い聞かせる用に作った魔法の言葉が口に出せない。

仲井さんに嘘はつけない。ついたところで、それは嘘だと見破られてしまう。