真剣に頭を下げて頼み込んでくる柳を足蹴にすることはできなかった。

ぼくだって、本当は力になってやりたい。

こんなにも真剣な柳は見たことがない。


友達のために、メンバーのために、頭を下げる柳の気持ちに応えてやりたい。


だけど、ぼくはギターを弾くことがどうしてもできない。

あの時の苦い気持ちや、つらい思い出が仲井さんの中にあっても、無意識に拒絶反応を起こしてまう。


「柳……少し、考えさせてもらっていいか?」


弱虫なぼくは友達を傷付けたくない一心で、淡い期待を持たせてしまう言葉を返してしまった。

応えられないくせに、なにをやっているんだろう。


中途半端な優しさは相手を余計に傷付けるだけなのに。


にわかに表情が明るくなる柳は、「ああ。良い返事を待っている」と、頬を崩してくる。

それでもあいつの顔は、どこか泣きそうで、悔しそうな面持ちをしていた。



教室に戻ったぼくは、重いため息を零して席に着く。

こんな形でギターと向き合わないといけなくなるなんてな。

どうやったら、あいつを傷付けないように断れるんだろう。


ぼくが代わりにギタリストを探してくればいいのかな。


ぐるぐると悩んでしまう。

放課後は仲井さんと色塗りしなくちゃいけないのに。


昼休みになると柳から楽譜と、練習のスケジュールを渡された。

まだ返事もしていないのに、自分のギターは音楽準備室に置いているから自由に使ってくれ、とまで教えてくれる。


その際、練習はできる限りの参加で大丈夫だと添えられてしまい、胃が重たくなるような、胸が詰まりそうになるような苦い気持ちを噛みしめた。


やっぱりあの時、柳を傷付ける覚悟で断れば良かったんだ。

曖昧な態度を取るから柳も期待を寄せて、ぼくに楽譜を渡してくる。


他のメンバーにも雰囲気で、事情が伝わっているようだ。

宮本からは「断っても良いから」と、気を遣われた。


困る、そう言われるともっと断りづらくなる。