逃げ回る柳を捕まえるために、椅子から飛び下りてその背中を追い駆ける。

作業をしているクラスメイト達から反感を買ったけど、全部柳が悪い!


なにがキスだバカ! 嫉妬? ああそうだよ、普通に嫉妬しているよ! ぼくが言えないことを、こいつはぺらぺらぺらぺら……と。


足の速い柳の制服の襟を掴むと、ぼくは力任せに引いて腕で首を絞めた。

早々にギブアップを主張する柳が、「嫉妬は醜いぜ!」とかなんとか言うもんだから、きつめに腕を捻っておくことにする。


「おーい柳。いつまで楽譜を探して……なにしているんだよ。お前等」


宮本が教室に入って来た。

どうやら柳は練習のために楽譜を取りに来たようだ。

そこでぼく達の会話を盗み聞きし、茶々を入れてきたんだろう。


ぼくの顔と、ギブアップを訴えている柳を交互に見やり、宮本は容易に何があったのか察したようだ。

ため息をつくと、かりかりと頭部を掻く。


「悪いけどそのバカ、うちのメンバーだから返してもらえるか? もうすぐ第一音楽室で練習なんだけど、時間が決められているから」

「いいけど、こいつをしっかりと躾してくれよな。“ナカナカ”コンビが迷惑になっているから」


「おれは恋愛マスターとして役目を果たしただけじゃんかよ! 大体中井がへたれなのが悪っ、アダダダダダダ! うそうそ! 調子に乗ったのはおれです!」


力を込めてやると柳のあられもない声が上がった。

解放してやると、そそくさと宮本を盾にして、「中井クンの暴力男!」と、抗議してくる。

ゲンコツをもう一発食らわせてやるべきか?


「ったく、いい加減にしろって柳。みんな待っているんだ。ボーカルのお前がいないと話になんねーよ。おれひとりのギターじゃ、下手くそなところはカバーできないし」


「ボーカル兼ギターなんだけど? 宮本」

「おれもお前もギターはへっぽこだろう? んじゃ中井、こいつは回収するから」


「ああ。練習がんばれよ。当日は見に行ってやるからな」