「んー? なんだ? なんだ、この変な空気」
ぼくと仲井さんの間に流れる空気を察した柳が、不思議そうに首を傾げる。
誰のせいだと思っているんだよ、誰のせいだと!
「ははーん。分かった。“ナカナカ”コンビは刺激が足りてねぇんだな。そりゃお子ちゃまなスキンシップだし、刺激も足りなくなるわけだ。うっし恋愛マスターの出番だ」
「永久に出番なんてねぇっ、お、おいばか!」
次の瞬間、仲井さんが柳の腕の中にいたものだから、ぼくも彼女も目が点。
なんでこいつ、仲井さんを抱きしめて。
「実はおれも狙っていたんだよね。彼女のことを」
「……や、柳くん。ちょっと放してくれる? こういうの、好きじゃないよ」
性格の悪い柳は、おろおろとし始める仲井さんを面白がっている。
「ヒトのものは欲しくなる性分なんだ。仲井さんはおとなしいけど、こう守りたくなる可愛さがあるし。なにかと気配りも上手くて優しい。まさにおれ好み!
ねえ仲井さん、ちょっとおれと付き合ってみない? あいつよりも大切にしてやるから」
「わ、わたしは……えっと、な、中井くんの方が」
「あいつの何がいいの? ほら、お子ちゃまなスキンシップばっかだろ? もっと女子が喜びそうなことを、おれならしてやるって。例えばキスとかな?」
「きぃっ……?!」
何を言っているだとばかりに、仲井さんが大パニックになっている。
女子の憧れだろう? と柳は聞き返し、ぼくの方にニヤッと嫌味ったらしい笑みを浮かべた。
「どうだ中井。今、おれは仲井さんをお前から奪ってやったぞ。悔しいなら奪い返してみ……ふっ、さすが恋愛マスターのおれ。中井に十分な刺激を与えたみたいだ。命の危機を感じるから、これにて解散!」
バッと仲井さんから離れ、一目散に逃げ出す柳を見逃すわけもなく、ぼくはこめかみに太い青筋を立てて怒鳴り声を上げた。
「柳、お前はいつもいつも。今回だけは勘弁なんねーぞ! お望み通り、窓から放り出す!」
「なんだよ。お前達に刺激を与えただけじゃんか! 今回はナカナカの仲を裂く、ライバルの登場を再現してみた。かなり刺激的だったろ? おれって友達思いだな!」
「ちょっかい出したいだけだろうが!」