ニッと笑いかけると仲井さんが頬を薄紅色に赤らめて頷いた。
それだけで心が躍り出しそうになる。彼女を知れば知るほど、関われば関わるほど好きになる自分がいる。
だけど、デートの一件以来、告白を思い留まる自分もいた。
好きを表に出すことも怖いし、なんらかの拍子で傷付け傷付けるかもしれないと思うようになったから。
ギターとはケースが違うけどさ。好きな気持ちで傷付くのはつらいし……。
「ナカナカに見せつけてくれるおふたりさん。なあに教室でイチャイチャしているんだよ“ナカナカ”コンビ」
突然、空気を裂くようにぼくと仲井さんの間に柳が現れた。
どこから話を聞いていたのか、「一緒に色塗りだなんて可愛いスキンシップじゃないか」と、指を鳴らして茶々を入れてくる。
おかげでぼくも仲井さんも真っ赤になってしまった。盗み聞きとか趣味悪過ぎだろ。
「ちょーっとお子ちゃま染みたスキンシップだと思うけど、おれはそういう青春も悪くないと思います。はい」
「……柳。それ以上言ったら、今すぐ窓から放り出すからな」
「おっと中井クン、怖いことは言わないでぇ」
ケタケタと笑ってくる柳の頭にゲンコツを入れておく。
お前のせいで空気が壊れたじゃないか。
どうしてくれるんだ、くそ。
「イテテ。なんで殴るんだよ。おれは、お前等の青春を応援しているんだぞ。なんかお前等を見ていると、くっ付いているくせに、実はくっ付いていない片思いな空気を醸し出すから」
アホなことばっか言うくせに、柳の感覚は時々驚くくらい鋭い。
まさしくその通りだ。
向こうがぼくをどう思っているのかは分からないけど、ぼくは彼女に片思いをしている。
くっ付いているのに、くっ付いていない片思いほどつらいもんはないよな。
それでも仲井さん、他の男子よりはぼくに気を許してくれていると思うんだけどな。
でも彼女の好みは、久保田のような優男の秀才くんだと分かっているし。
どうしよう、これからも良い友達でいましょうだったら。
告白してその関係が崩れるくらいなら、今の関係の方がずっとマシだ。気持ちが戻っても、このままの関係でいられるかな。
ちらっと仲井さんに視線を流す。ばっちり彼女と目が合い、ぼくはほんのりと苦い気持ちを噛みしめた。
好きになればなるほど臆病になる自分がいるから、まじうぜぇんだけど。