右の下書きにはコックさんの格好をしたイヌがメニューを紹介している。

左の下書きは同じくコックさんの格好をしたネコ。


うーん、どっちも可愛いけど。


「ヒヨコにしなかったの? 仲井さん得意でしょ?」


からかってやると、「中井くんのバカ!」特大のバカをもらった。

なんだよ、可愛いじゃん。ヒヨコ。


「ま、真面目に選んでよ。中井くんの意見でその、決めようと思っているんだから」


ごにょごにょと仲井さんが口ごもっている。最初しか聞き取れなかったんだけど。


ぼくは下書きを見比べた。

どっちも可愛いと思うよ。

ヒヨコならそれ一択だったけど、イヌとネコなら前者かな。

見るからに、仲井さんが気合を入れて描いているのはイヌだから。

きっとお気に入りなんだろう。見ただけで分かる。


なにより彼女を持つぼくだ。

イラストに関する彼女の気持ちはなんでもお見通しだ。


「ぼくは右が好きだよ。ネコもいいけど、イヌの方が可愛い」


途端に仲井さんの機嫌が直った。

「や、やっぱりそっかぁ」

と、言って右の下書きを見つめ、これにするとふにゃふにゃ笑う。


「なら右にする。これにペン入れをしよう。それが終わったら中井くん、一緒に色を塗ろうよ」

「えー? ぼくの下手くそっぷりは知っているだろう? 絵が台無しになるって」


「そんなことないよ。誰かと一緒に塗った方が楽しいし」


お母さんとの思い出を大切にしている仲井さんらしい台詞だった。

ぼくは頬を掻き、目を泳がしながら困ったような素振りを見せるけど、仲井さんのお願いなら断るわけにもいかない。

彼女の中の気持ちも騒いでいるし、ぼく自身の気持ちも、その、あれだあれ。期待しているというか、なんというか。


「分かった。じゃあ、この雑用が終わったら一緒に塗ろう。それまでにペン入れを終わらせておいてくれよ? じゃないと、また別の雑用を頼まれるだろうから」