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「ねえ中井くん」
「なに?」
こっそりと侵入した昇降口の扉を閉め、ぼく達は誰にも見られないように学校の敷地を出る。
正門を出たところで、ぼくは泣き腫らした目をしている仲井さんに声を掛けられる。
若干鼻声になっていた。申し訳なく思う。これもぼくの気持ちのせいだ。
「ギタリストになりたいとか、夢を見たことはある?」
突然の質問に困ってしまう。
ギタリストか。
そうだな、夢を見なかったわけじゃないけど。
「その時のぼくは遠い将来の夢より、今の楽しさが優っていたから。いつか、五人でステージに立ってライブをする。それがぼくの夢だった」
仲井さんに比べると、ずっと小さな夢だろう。
だけど、確かにそれはぼくの夢だった。もう叶わない夢だけどさ。
「急にどうしたの?」
「ううん。ただ、好きなものを好きだと思い続けるのは難しいな、と思って。それが飽きちゃったとか、興味がなくなった、とか……そういう話ならべつにいいよ。でも、自分は今も大好きなのに、周りにあれこれ言われて、好きが言えなくなるのは悲しいと思って」
「そう、だね……本当に難しい。好きだからこそ、ぶつかることだってあるんだから」
ぼくはぶつった挙句、ぽっきりその気持ちが折れてしまった。
ただギターが好きで好きでしょうがなかっただけなのに、小さなことが積み重なって、好きなものが嫌いなものになってしまった。
もう、ぼくはあの頃の自分や、その気持ちを思い出すことも難しい。
「仲井さんは簡単に折れちゃだめだよ。ぼくのような想いはして欲しくない。これからもお父さんに夢を反対されてもくじけないでね」
「中井くん……」
「ぼくはもう、ギターが好きだと言うことができないし、ギターを通した夢も見ることはできない。どうしても傷付くことが怖いんだ」
だけど仲井さんには、立派な将来の設計図がある。
道の途中で傷付くことがあっても、ぼくのように折れるような、小さな人間になって欲しくはない。
ぼくは弱虫だから、傷付くことを恐れるあまりに逃げてしまった。