そんな出来事もあり、斎藤は不人気な先生だった。

ぼくが学年主任から逃げた理由を聞いた仲井さんは、


「没収されたら返してもらえないらしいもんね」


と、同情したように苦笑いをする。


そう、そうなんだよ。それが一番の問題だったんだ。


あの雑誌は高かったんだ。

月にもらえる小遣いは少ないから、二冊も買う余裕は到底ない。


「でも、逃げたら逃げたで面倒にならないかな」


ごもっともだ。

ぼくはつい、しかめっ面を作ってしまう。


「まあ……それは追々悩むことにするよ。ぶつかってごめんな。大丈夫?」

「うん。大丈夫。お尻が痛むくらいだよ」


そう言って仲井さんは立ち上がると、スカートに付いた埃を払って雑誌を手に取る。

ぼくもならって分厚い本を手に取り、再三再四片手を出して謝る。


「もういいよ」と、笑って許してくれる仲井さんに、もう一度謝ってその場を後にした。


「痣になったかも、まだ尻が痛いや。仲井さんには悪いことしちゃったな」


ずきずきと痛む尻をさすりながら、階段を上って行く。


衝突事故ほど痛いものはないや。

仲井さんも今頃、痛みに襲われているだろう。

明日、彼女に会ったらもう一回謝っておこう。


まずは雑誌を隠さないと。教室に隠しておくかな。

今、一階に下りて、もし斎藤に遭遇したら通学鞄の中身をチェックされそうだから。あれ?


「……これ、ぼくの雑誌じゃない」


分厚い本には『初心者向けのイラスト講座』とタイトルが記されていた。

仲井さんの私物を持っていることに驚いてしまう。


なんで、気付かなかったんだ? ぼくは自分の雑誌を持ったはずなのに。