頭を縫ったぼくは検査と安静のために三日間、入院を強いられた。
また両親からはどうしてこんなことになったんだと、執拗にぼくに説明を求めた。
それはきっと、少しならず現場にいた人間から事情を聴いているからだろう。
だけど、ぼくは聞かれる度に返した。
階段から足を滑らせて落ちたのだと、ドジを踏んだだけなのだと、この怪我は自己責任なのだと。
事故の加害者に当たる旭を庇うつもりは毛頭なかった。
でも、責める気持ちも起きなかった。
責めるだけ旭と関わる、その現実が嫌で仕方がなかった。
心に占めるのは大きな恐怖心。
もう旭達と関わりたくない。
責められる苦さも、好きなものを否定されるつらさも、好きなものを打ち込む自分を笑われる悲しみも味わいたくない。
どうすればこの苦々しい気持ちを切り離せるのか、楽になれるのか、ぼくは考えた。必死に考えた。
そして気付いた。
何もなかったことにすればいい、今までのことなんてすべて忘れてしまえばいい――と。
入院している短い間に、メンバーを代表して旭が見舞いに来た。
あいつはぼくを突き飛ばしたことを心底悔やんでいた。
病室に入って来るや、被害者に深くふかく頭を下げてきたのだから。
ぼくはあいつの謝罪を受け取らなかった。
許すも何もない、だってぼく達の間には何もなかったのだから。
許す代わりに聞いた。
バザーフェアのステージにはエントリーはしたのか、と。
責任感が強い旭は今回はエントリーしないと答えた。
ぼくが完治するまで、絶対にステージには立たない、と。
『なに、バカなことを言っているんだよ。ずっと練習してきたんだ。その時間、無駄にするのかよ』
『おれは、おれは……英輔が戻ってくるまで弾かないって決めたんだ。その手が治るまで、おれも弾かない。こんなことをして許されるとは思わないけど』
それこそバカな発言だと思った。
ぼくが戻ったところで、またあの日々が繰り返されるだけだ。予想できる未来に喜べるほど、ぼくもオトナじゃない。
『あの時はお前を責めてちまったけど、英輔は戸惑ったんだ。そして気付いたんだ。おれ達が勝手に楽譜を変えていたことに。なにより、お前は知っていたんだ――おれ達が最低なことをしていたことに……なのに、おれ』
ああ。
もう責められるのも、否定されるのも、笑われるのもごめんだ。