「そんなある日、最後に公民館を出たぼくは聞いてしまった」
公民館の裏手で四人が話している内容を。
彼等はぼくが帰っていると思って話していたようだけど、本人は聞いてしまった。
『まじ、どうにかなんねぇかな。英輔……あいつ、ミスばっかしやがって。練習してもちっとも上手くならないし、あれは上手い下手の問題じゃない。才能の問題だって。あいつがいない方が演奏まとまるんじゃねえの』
そう言って憤っていたのはぼくと一番仲の良かった旭だった。
正直ショックだった。あいつはぼくのギターバカを知っていたから。
自分でも凡ミスをしていることは申し訳なく思っていたけど、まさかそう思われていたなんて。
『あんな腕でバンドコンテストとか夢見るなって話だぜ。てめえの現実を見ろよ。まだ、四人で出た方が出場できるっつーの。凡ミスされて笑われるだけだぜ』
『英ちゃん、がんばっているんだけどね。ちょっと音感がないっていうか』
『才能がないんだ』
四人が面白おかしく笑いながらぼくの悪口を言っていた。
その夜は、自分のギターの腕がないんじゃないかって落ち込んだし、どうして凡ミスばっかりするんだろうって眠れない一夜を過ごした。
だけど、ぼくは根っからのギターバカ。なにをしてもギターが好きだから、どうしても四人を見返してやりたい。
今は悪く言われても、笑われても、絶対に見返す。腹が立ってきた!
そう思ったぼくは凡ミスを無くすために練習を重ねた。
「その頃からかな。ハブられるようになったのは。ぼくが公民館で練習している間、四人はファミレスで打ち合せをしていたみたい。四人は隠していたつもりだけど、会話の節々を聞いていたら、すぐ分かっちまう」
「な、なんで……中井くんだってメンバーじゃん」
「ンー邪魔だったからじゃないかな。打ち合わせの話になると、自然と演奏の話になるだろう? そしたら不満も出てくる。四人の不満はもっぱらぼくだったし」
ハブられていることに傷付いているぼくがいた。
それを笑って虚勢を張るぼくがいた。
そんなことで傷付いているなんて、と悪態をつかれることも怖かったし、弱い自分と向き合うのも嫌だった。
同時期、ギターを弾く度に胸が痛くなり始めた。
ギターを練習する時、先に帰ると告げてくる四人の背中を見送る時、またハブられているんだとため息をつきたくなる現実と向き合った時――あんなに楽しいと思っていたギターが楽しく思えなくなってきたっけ。