「うわ、ちょ!」
「きゃっ!」
どちらが先に悲鳴を上げたのか。
それは時刻を知らせるチャイムによって掻き消され、分からなくなってしまう。
鏡の向こうに映るぼくと仲井さんは鳴り始めるチャイムと同時にぶつかり、それぞれ手に持っていた本と雑誌が投げ出された。
派手な衝突事故だった。
お互いに尻もちをつくほど、勢いづいてぶつかってしまったのだから。
トドメを刺すように、仲井さんの持っていた分厚い本の角がぼくの脳天に直撃して身悶えしまう。
目から星が出るって言葉、あれは本当だった。世界がチカチカしたもん。まさに踏んだり蹴ったりだ。
バサバサ、と音を立てて転がる本と雑誌を尻目に、ぼくはうめき声を上げてしまう。
「イタタタ。一体なにが起こったの?」
同じようにお尻をさすって、うめいている仲井さんは涙目でぼくを見つめた。相当痛かったようだ。
ぼくは彼女に両手を合わせ、「ごめん! ちょっと慌てて」と、頭を下げて謝る。
「鬼の学年主任に、雑誌を読んでいるところを見られちゃって。あいつに没収される前に逃げてきたんだ」
自分がお行儀悪く、廊下で歩き読みしていたことは伏せておく。それを説明したら非難を浴びそうだから。
仲井さんは納得したように、ひとつ頷いた。
鬼の学年主任はぼく達生徒の間では、とても不評な先生だ。
校則に厳しいだけじゃなく、小さなことで注意をして、すぐ怒ってくる。
例えば、廊下に落ちていたゴミを拾わない。
それだけで学年集会になったことがあった。
お前達の善意はどこに行った。掃除の仕方から勉強しないといけないのか。小学校からやりなおせ、なんて怒鳴られたことがある。
言いたいことは分かるけど、集会を開いて二時間も説教する内容じゃない。
ぼく達生徒をストレス発散にしているんじゃないか、とあの時は疑ったよ。