練習を始めた当初は地獄だった。
弦は硬いし、押さえられないし、コードは覚えられないし。
その内、指にマメもできて押さえることもつらい。
それが潰れたら尚更、つらくてつらくて。何度泣きそうになったことか。
それでもギターをやめようとは思わなかった。
どうしても兄ちゃんのように弾きたくて、必死に練習をした。
実は兄ちゃんも両親も、すぐに飽きるだろうと踏んでいたようで、ぼくの夢中っぷりには驚いていたようだ。
ぼくの熱意が伝わったのか、兄ちゃんはよく家に遊びに来て、ギターのことを教えてくれた。
『いいか。まずは感覚で覚えるんだ。コードで覚えようとするんじゃない。音で覚えるんだ。弦の数を減らして弾いてみよう。慣れてきたら、弦の数を増やして色んな曲に挑戦だ』
ギターをはじめて一年。
ぼくのギター熱に親も本気を感じ取ったようで、その年のクリスマスはギター雑誌と教則を数冊買ってくれた。
ぼくにとってそれは最高のプレゼントだった。
周りの友達はゲーム機を買ってもらっただのなんだの言っていたけど、それに匹敵するくらい素晴らしいプレゼントで、それらがボロボロになるまで読んだ。
特に雑誌の記事は面白くて、気に入った話にはべたべたと付箋紙をした。いつでも読めるように。
「雑誌に付箋紙をする癖はここから始まった。今も雑誌に付箋紙を付けるのは、その名残だよ」
「ほんとうに、好きだったんだね」
「ばかみたいに夢中になったよ。このマメも、何度潰したか分からないや」
仲井さんと結んでいる左手を流し目にする。
あの頃は楽しかった。
ギターにひたすら打ち込むことが好きで、少しずつ上達する自分が好きで、ギターを弾き自分が好きで仕方がなかった。