「ねえ、中井くん。きみはわたしの夢を聞いた時、笑わずに応援してくれたよね」


重々しい空気を裂いたのは仲井さんだった。

彼女はぼくを見上げてはにかむ。

イラストレーターの夢を聞いても笑わず、精一杯応援してくれたこと。

お父さんに見下された時は真剣に怒ってくれたこと。

自分の本音を吐き出させてくれたこと。


全部嬉しかった。


それだけじゃない。

自分の気持ちに悪態もつかず、いっしょに絵を描いて楽しんでくれた。あの時間は元に戻っても宝物にしたい、と仲井さんは目尻を和らげる。


「いつもそう。中井くんは楽しい時間をくれる。今日だって……中井くんに元気を出してもらおうと映画に誘ったんだけど、わたしが楽しんじゃって」


「え」目を丸くするぼくに、「最近ため息が多かったから」今度は自分が励まそうと思ったのだ、と彼女は唇を尖らせた。いつものヒヨコになっていた。


「よくよく考えてみれば中井くんの気持ちはわたしが持っているから、わたしの方が楽しんじゃって当たり前なんだろうけど」

「……仲井さん」



「今まで映画を観たら、楽しいな、ワクワクするな、ドキドキするなって思っていた。中井くんの気持ちもあって、映画を見れば見るほどのめり込んだよ。
でも、中井くんがギターに触れた瞬間、そんな気持ちは全部うそに思えたの。本当に強い気持ちが宿っているのは、ギターなんだってその時分かって」



ぼくは思わず握っている手に力を込めてしまう。


痛みはない。


代わりに、仲井さんが痛みを感じているんだと思う。