「まじかよ。斎藤じゃん」


あいつに捕まったら確実に生徒指導対象だ。

最悪、学年集会を開かれるかもしれない。


それだけならまだしも、この雑誌が没収されかねない!


斎藤に没収されたら卒業まで返してもらえないと噂を聞いているぼくは、急いでその場から逃げだした。

どうしてもこの雑誌を没収されるわけにはいかない。


特にこの雑誌はお気に入りで、やっと友達から返してもらったんだ。

指導なら明日にでもたっぷりと受けるから、今は見逃してくれ!


「岩倉の説教の後は、鬼の学年主任と鬼ごっことか。今日は厄日かよ」


誰がどう見てもぼくが撒いた種なんだけど、自業自得だっていうことも分かっているんだけど、それでも嘆かずにはいられない。今日はとんだ災難だ!

昇降口近くの階段を駆けのぼり、斎藤から逃げる。

通学鞄に雑誌を仕舞う余裕はない。

頭の中は見つかったことに対するパニックと、どこかに雑誌を隠してしまうことでいっぱいだ。

何が何でも没収だけは回避したかった。


一階から二階、二階から三階、そして三階から四階に差し掛かった時だ。


「どこだ中井!」


下の階から心臓が縮み上がる怒号が聞こえ、ぼくは思わず後ろを振り返ってしまう。

だから気付かなかった。踊り場の鏡の前で、同じ『ナカイ』の名前を持つクラスメイトが、自分の名前を呼ばれたと勘違いして足をすくめてしまったことを。


ぼくはぶつかる寸前まで仲井さんに気付かず、視線を戻して、彼女の存在を知った。