何も答えられずにいると、仲井さんが視線を戻し、持っているペットボトルを軽く振った。
「弾けない。怖い。もう嫌だ。夢なんて見たくもない、好きなものだと言いたくない。こんな自分が嫌いだ。さっきの中井くんは、そう思っていた」
水の中に生まれる気泡を見つめる仲井さんを凝視してしまう。
なんで、彼女がそんなことを。だって入れ替わった気持ちは映画の、えいがの。
「黙っておこうと思っていたんだけど、中井くん……教室で柳くん達とギターを触っていた時も同じようなことを思っていたの。すごく、悲しい気持ちになった。それが嫌いだと思い込むきみの気持ちまで、ひしひしと伝わってきて。わたしはとても泣きそうになって」
ああ、なんで、よりにもよって。
「好きなものを否定する、嫌う、悲しいきみがわたしの中にいる」
あの気持ちが仲井さんの中に宿っているんだ。
「本当は聞いちゃいけないことなのかもしれない。見ない振りをする方が良いのかもしれない。だけど、わたしにはできなかった。中井くんが悲鳴を上げている、その声をどうしても」
――好きになってしまった女の子の心の中に、あの気持ちが。
どおりで、忌々しい楽器を目にしても何も感じなかったはずだよ。
ギターの弦の張り替えをスムーズにこなせたはずだよ。
菜々や旭を目にしても、動揺せずに済んだはずだよ。
なら、さっき仲井さんが気分を悪くしたのは、ぼくの気持ちのせいか。
あの気持ちはぼくだけでなく、彼女までも傷付けるのかよ。どこまでも苦しめてくるんだな。
どうにかしないと。
ぼくの気持ちが、ぼくだけでなく仲井さんを傷付けるなんて絶対にあっちゃいけないことだ。
「仲井さん。今から学校に行こう。あの雑誌と本を持って」
目を丸くする仲井さんは、べつの返事を待っていたに違いない。
だけど、ぼくは彼女に言い放つ。
「今すぐ、ぼく達は元に戻らないといけない」
⇒【6】