できたら、もう二度と関わってくれないでくれよ。お互いのために。


ぼくの歪んだ微笑みがふたりに届いたのかどうかは分からない。

何か声を掛けられたような気もするけど、頭の中は仲井さんでいっぱいだ。


どこへ行こう。


仲井さんが休めるところ。

トイレが近いところがいいかな。

喫茶店だと周りにお客さんがいるだろうから、彼女が気を回す。


コンビニでトイレを借りるのも手だけど、まずは座る場所の確保だ。


結局、思い当たる場所は当初目的としていたバス停だった。


まばらにバスを待つ乗客がいたけれど、ヒト一人分の座るスペースはある。

そこに仲井さんを座らせると、少しでも気分が良くなるように近くの自販機でミネラルウォーターを買った。


その頃には、仲井さんの頬に少しだけ赤みが差した。

さっきよりは気分が良いんだと分かる。


バスに乗れそうか、と尋ねると、彼女はうんっと頷いて、「ごめんね」と申し訳なさそうに謝ってきた。


気にしていない。むしろ、謝りたいのはぼくの方だ。


不本意とはいえ、彼女に気を遣わせてしまったから。


察しの良い彼女は気付いているだろう、さっきのふたりとぼくの間柄に漂う不穏な空気を。


それを追求しないのは、仲井さんの優しさだと思う。


「次のバスに乗ろうか」


仲井さんの隣に座っていたサラリーマンが立ち退いたため、ぼくは遠慮なくそこに腰を下ろす。


ミネラルウォーターの入ったペットボトルの蓋を開けていた彼女が、少し間を置いて頷いた。

そして、物言いたげな横顔がぼくの方を向く。


「中井くん……やっぱり、気になるから聞くね――きみが本当に好きなものはなに?」


どきり、と心臓が鳴る。

質問の意味が分からないのに嫌な汗が流れた。


口の中の水分が急速に失われていく。
ぼくの好きなもの? そんなの仲井さんが一番分かっているじゃないか。


ぼくは映画が好きだ。雑誌を買ったり、その記事をスクラップしたり、DVDそのものを買ったりして楽しんでいる。



ぼくの気持ちを持つ仲井さんが一番分かっているじゃないか。



いつものようにおどけて返さないと。返さないと。かえさない、と。