「また家に来てご飯をいっしょに食べて欲しいって言っていた。お姉ちゃんも、おんなじことを言っていたから、今度遊びに来てね」
「仲井さんはいいの? 公認になっているみたいだけど」
ちょっとだけ意地の悪いことを言うと、彼女は妙に唇を尖らせた。
「中井くんが嫌じゃないなら、わたしはべつにいいよ。きみと一緒にいて楽しいし」
よこしまなぼくは思う。
少しはぼくを異性として意識してくれているんじゃないだろうか、と。
それが確信に変われば、ぼくは今すぐにでも思いを伝えたい。気持ちが戻るまでの期間限定だけの関係じゃなく、もっとべつの。
思いきって告白してしまおうか。
うんぬん考えてながら、隣を歩く仲井さんを横目で観察しながらバス停に向かっていると、高校生であろう学生男女ふたりとすれ違う。
なんてことない。
ただ通行人とすれ違っただけ。
なのに、ぼくはその学生ふたりに見覚えがあった。
見間違えだ。気のせいだ。
そう自分に言い聞かせても無駄だった。
向こうが反応を示し、「今のは」「英ちゃん?」と名前を呼んだのだから。
「……中井くんの知り合い? 呼ばれているみたいだけど」
「行こう仲井さん。バスの時間に遅れる」
後ろから聞こえてくる呼び声を一切無視し、ぼくは彼女の手を取って歩調を速める。
「な、中井くん」
戸惑う仲井さんには悪いけど、ぼくはあのふたりに関わりたくない。
関わったって、ばかを見るのはこっちなんだ。もう終わったことだから、グチグチ言う気にもなれないけど。
「英ちゃん、待って。待ってってば!」
空いている腕をグイッと引かれ、ぼくは半ば強制的に足を止める。
振り返れば、片割れの女子がぼくの腕を握っていた。
後から追って来る男子と見比べ、深いため息を零してしまう。
なんでお前等に会っちゃうかな。しかもデート中に。
取りあえず、放してもらおう。
ぼくは中学時代の同級生、岡本 菜々(おかもと なな)に腕を放すよう頼む。彼女はセミロングまで伸びた髪を耳に掛けて顔を上げる。