午後からはのらりくらりと時間を潰した。
カラオケは苦手らしいから、近場の文具店に入って、仲井さんにコピックという道具を教えてもらったり、描きやすいペンを教えてもらったり。
本屋に入って映画雑誌を仲井さんにオススメしたり、海外ドラマも実は面白いのだとそれ関係の雑誌を見せたり。
とても穏やかな時間だった。
「このメーカーが描きやすいんだ。中井くん、描いてみる?」
「へえ。どれどれ……違いがよく分からないや。絵を描かないからかな?」
「中井くん。これはタヌキ?」
「どう見てもイヌじゃん! 柴犬じゃん!」
「い、イヌ? しかも柴犬なんだ」
「あー下手くそって思ったんだ! 絶対思ったんだ!」
「そ、そんなことないよ。個性的なイヌだね」
「笑いながら言われても説得力ないからね!」
描きやすいとオススメしてくれたペンで一緒に落書きをした。
「な、仲井さん。見逃して! ぼくはこの雑誌を買って、記事を何度も読みたいんだ!」
「さっきも同じこと言って買おうとしたよ! 中井くん、少しはお金を大切にしてよ」
「してるしてる! もう、超大事!」
「後悔するのも中井くんなんだから。もー! だめだって!」
イラスト雑誌を見たぼくが衝動買いをしようとして、それを必死に止める仲井さんがいた。
「これから、どうする? あ、向こうにプリクラとかあるよ。女の子は好きでしょ?」
「プリクラかぁ。あんまり撮らないな……あれ? 男の子は入れないっぽいよ」
「え? あ、ほんとだ。看板に書いてあるね。でもカップルはいいみたい」
「……カップルはいいんだ」
「……うん、カップルはいいみたいだよ」
異性を意識することもあったけれど、彼女の隣では自然体でいられたから、変な態度は取っていないと思う。
しいて言えば、ぼくのテンションが高いってことくらいかな。
それ以外はいつも通りだった。
視聴覚室で過ごす、あの時間そのものだった。
今日が終わって欲しくない。そんな贅沢すら思っていた。
「あ、もう六時半か。仲井さん、門限は? あんまり遅くなると、お父さんが心配するでしょう?」
適当に入った喫茶店を出たぼくは、スマホで時間を確認する。
空はまだ明るいけれど、時間はあっと今に六時半。まだ四時くらいだと思っていたのに。
「八時までには帰るようにするって伝えているから、まだ大丈夫だよ」
「けど、バスの時間があるから、そろそろバス停に行こう。遅くなると、ぼくが叱られるだろうし。ブッ飛ばされるかも」
おどけるように肩を竦めると、「お父さんは中井くんを気に入っているよ」と、返される。